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東京地方裁判所 昭和61年(ナ)1489号 決定 1986年9月10日

債権者 田島ルーフィング株式会社

右代表者代表取締役 田島栄一

債権者代理人弁護士 安木健

同 太田稔

同 鬼追明夫

同 吉田訓康

同 辛島宏

同 的場俊介

同 佐古祐二

同 松田繁三

同 青山吉伸

債務者 日本瀝青工業株式会社

右代表者代表取締役 中西政一

第三債務者 東海興業株式会社

<ほか二五名>

主文

一  本件債権差押命令の申立をいずれも却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  申立人は、日本瀝青工業株式会社(以下「債務者会社」という。)を債務者とする別紙担保権・被担保債権・請求債権目録(以下「担保権等目録」という。)記載の動産売買先取特権の物上代位に基づき、債務者会社の第三債務者である東海興業株式会社外二五名に対する別紙差押債権目録記載にかかる請負代金債権について、債権差押命令を求める旨の申立てをした。

二  よって検討するに、本件申立ては、担保権等目録並びに差押債権目録記載から明らかなように、申立人が債務者に対して防水工事資材を売却し、債務者会社が同資材を用いて第三債務者らからの注文に基づき、それぞれ建物防水工事をしたことにより取得した請負工事代金債権のうち、商品(資材)代金相当部分について、債権差押命令の申立てをする、というものである。

ところで、動産売買先取特権の物上代位は、債権者・債務者間における売買の目的とされた商品と債務者から第三債務者に転売された商品とが同一であること、すなわち、商品の交換価値が転売代金債権に転化しても価値の同一性が維持され、他の債務者の一般財産と明瞭に識別・特定されることを基礎とするものであるが、債務者と第三債務者間の請負契約をもって、商品の転売と同視し得るかが問題となる。請負契約のうち、商品の売買が主であり、取付け等の工事を付随的内容としているような場合は格別、通常仕事の完成は、数多くの種類の資材(商品)と労力を用いて行われるものであり、請負代金債権は、各種類の商品の交換価値及び労働価値の結合したものとみることができるのであるから、請負代金債権総額の中の特定の一部について、なお転売代金債権性が維持されていることを肯定するためには、請負契約の内容、とりわけ特定商品の使用についての約定、特定商品が具体的に使用されている状況及び各種の資材全体に占める使用割合、特定商品の請負代金全体に占める価格割合等を総合的に勘案し、一般社会通念に照らし、請負代金債権中に占める他の商品資材・労力などの価値構成要素と明瞭に識別・特定できる場合に限定されるものと解すべきである。(なお、売買された商品資材が工事現場に搬入されたとしても、その全部又は一部が資材として使用されていなければ、当該使用されていない商品の交換価値については請負代金債権の中に構成要素としては含まれておらず、また、全部又は一部が資材として実際に使用されていたとしても、工事全体に占める資材割合、価格割合が高くないときには請負代金を構成する他の価値要素と混在一体化し、当該商品の価値の同一性・特定性を喪失しているものとみるべきであるから、転売代金債権性は否定されるべきである)。

これを本件についてみるに、申立人は、単に担保権等目録記載の商品を債務者に売却したこと及び同商品を債務者が工事現場としている各第三債務者の指定場所に搬入したことに関する証明文書を提出するにとどまり、上記転売代金債権性を肯定するに足りる証明文書の提出がないものである。

以上のとおりであって、担保権の存在を証する文書の提出がないから、本件債権差押命令の申立ては理由がないので却下することとして、申立費用について民事執行法二〇条、民事訴訟法八九条を適用をし、主文のとおり決定する。

(裁判官 井上稔)

<以下省略>

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